【食品生理機能学とは】食品には単なる栄養素に留まらない機能がある=食品機能という概念は栄養/食品の研究分野を大きく拡張しました。現代の日本で大きな問題となっている疲労やストレス、肥満の問題を食品やその成分、あるいはタンパク質の酵素分解で生成するペプチドなどがもつ機能により緩和できれば、人々の生活の質 Quality of Life (QOL) の向上に大きく寄与できるでしょう。我々はこれらの問題を解決するために、食品が脳神経系、消化器系、循環器系などに対して及ぼす作用を、個体、臓器、細胞、分子および遺伝子レベルで追求しています。
【研究内容】「運動と疲労/行動する動機に関する研究」
運動時のエネルギー代謝の中枢性調節に関する研究として、脳がどのようにして運動時のエネルギー基質動員を調節するかそのメカニズムの解明を目指しています。さらに行動する動機の生成・維持機構とその逆方向の疲労の生成機構の解明を目的として、精神的ストレスや運動による中枢性疲労発生/動機の減退および食品等による行動する動機(=意欲)の増大機構を生理学・行動学・薬理学・光遺伝学的手法を用いて明らかとし、これらの知見を応用した抗疲労・疲労回復食品の開発を目指しています。
「食品由来の新しい生理活性物質の探索」
食品を摂取すると消化酵素で分解され膨大な分子種の中分子が生成し、さらに、低分子化され消化吸収されます。食品の酵素消化物が種々の生理活性を示しますが作用本体の単離精製同定は簡単ではありません。そこで、消化物全体を包括的に分析し(一斉分析)、生理活性を示す構造上のルール(構造―活性相関)を解明することにより効率的に作用本体を発見する手法を開発し、意欲向上、ストレス緩和、学習促進、血圧降下、血糖降下作用など多彩な生理活性を有する新規物質を発見し命名しています。
「経口投与で有効な中分子の脳―腸連関の解明」
食品の酵素消化により生成する中分子の生理活性物質が経口投与で医薬品に匹敵する強力な生理活性(意欲向上作用など)を示すことを発見しました。これらの生理活性物質は、吸収を前提とする従来の作用機構とは異なり、腸―脳連関、すわなち、消化管に直接作用し脳にシグナルが伝達されることを発見しました。現在、消化管で受容されたシグナルがどのように脳に伝達され情報統合が起こるのかを検討しています。
「油脂のおいしさと肥満に関する研究」
霜降り肉やドーナツなど油脂を多く含む食品は我々をやみつきにさせるような魅力的なおいしさ(嗜好性)を持ちます。油脂は食品のおいしさを高めますが、一方で過食を招き生活習慣病のリスクファクターである肥満が引き起こされることが大きな問題となっています。そこで油脂のおいしさがどのようにして過食を引き起こすのか、逆にどうすれば油脂を食べても太らないようにできるかを行動学、神経科学、分子生物学的手法により研究をしています。
「転写因子CREBによるエネルギー恒常性維持機構の解明」 CREBはホルモンや成長因子などに応答して増加した細胞内cAMP,Ca2+依存的に遺伝子発現を制御します。このためCREB活
性の低下は急激な環境変化に適応するための遺伝子発現の低下を招き、様々な疾病の引き金となってしまいます。そこで、CREBを活性化する食品因子の探索、CREB欠損により引き起こされる肥満、糖尿病、脂肪肝に着目して研究を行っています。
【担当科目】学部では、食品生理学、栄養化学、基礎生化学T、栄養生理学実験及び実験法、食品生物科学概論など、大学院では、代謝栄養学特論、栄養生理学特論、健康科学特論、栄養生理機能学特論Uを担当しています。
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